「腕が上がらない」「夜中に肩が痛くて目が覚める」「着替えのときに肩が引っかかる感じがする」——こうした症状が続いているとき、それは肩関節周囲炎、いわゆる「五十肩」かもしれません。
この記事では、肩関節周囲炎の基本的な知識と、理学療法の現場でどのような評価・治療が行われているのかを、医学的なエビデンス(根拠)にもとづいてわかりやすく解説します。
「五十肩」「肩関節周囲炎」「凍結肩」——呼び方がいろいろあるのはなぜ?
この疾患は、呼び方が複数あって混乱しやすい病気の一つです。
日本では一般に**「五十肩」という言葉が使われますが、医学的な正式名称は「肩関節周囲炎」**です。英語では “Frozen shoulder(フローズン・ショルダー)” や “Adhesive capsulitis(癒着性関節包炎)” とも呼ばれます。
これらはいずれも同じ病態を指しており、肩関節を包む「関節包(かんせつほう)」という組織が収縮・癒着することで、痛みと可動域の制限が起こる状態です。「五十肩」という名前のとおり、中高年に多く発症しますが、40〜70代と幅広い年代にみられます。
誰がなりやすいの?——発症しやすい人の特徴
肩関節周囲炎は、40代以降の中高年に多く、患者の80%以上がこの年代に集中しています。
特に発症リスクが高いとされるのは糖尿病を持つ方です。血糖値のコントロールが悪い状態が続くと、関節周囲の組織が変性しやすくなることが関係していると考えられています。糖尿病との関連は多くの研究で指摘されており、理学療法診療ガイドラインでも「推奨グレードB(科学的根拠あり)」として挙げられています。
その他のリスク因子としては、甲状腺疾患や**脂質異常症(高脂血症)**なども報告されています。また、デスクワークなど肩をあまり動かさない生活スタイルも、肩の可動性低下につながりやすいとされています。
五十肩はどんな経過をたどるの?
肩関節周囲炎には、特徴的な「3つの段階」があります。
① 疼痛期(炎症が強い時期) 肩の痛みが強く、特に夜間痛(夜中に痛みで目が覚めるほどの痛み)が特徴的です。この時期は無理に動かすと症状が悪化することがあります。
② 拘縮期(固まっていく時期) 痛みが少し落ち着く一方で、肩の動きが硬くなっていきます。腕を上げたり後ろに回したりする動作が著しく制限されます。
③ 回復期(少しずつ動きが戻る時期) 拘縮(固まった状態)が少しずつほぐれ、可動域が改善していきます。
この一連の経過は、平均で12〜42ヶ月かかるとされています。「自然に治る病気」とも言われますが、それだけの時間がかかること、また適切なリハビリによって回復を早められることを考えると、早期からの対応が重要です。
理学療法士はどのように評価するの?
理学療法の場では、肩関節周囲炎の患者さんに対して以下のような評価を行います。
可動域(ROM)の測定 腕をどこまで上げられるか、どの方向に動かせるかを角度で計測します。痛みが生じる角度や、制限が強い方向を確認します。
痛みの評価 どこを触ると痛むか(烏口突起や上腕二頭筋腱など)、安静時・運動時・夜間それぞれの痛みの程度を確認します。
アンケート式評価スケールの活用 患者さんが日常生活でどの程度困っているかを数値化するために、**DASH(腕・肩・手の障害に関する評価票)やSPADI(肩の痛みと障害指数)**といったアンケート式の評価票が使われます。これにより、治療の効果を数値で追跡できます。
画像検査(MRI関節造影) 理学療法士が直接行うわけではありませんが、関節包の収縮や癒着を確認するためにMRI関節造影が有効とされています(推奨グレードA)。特に、五十肩と似た症状を持つ他の疾患(腱板断裂など)との鑑別に役立てられます。
どんな治療・リハビリが行われるの?
肩関節周囲炎に対する理学療法として、科学的根拠(エビデンス)にもとづいたいくつかのアプローチが存在します。
運動療法(体操・ストレッチ・徒手療法)
運動療法は、肩の可動域を改善し、筋力を回復させるための中心的なアプローチです。関節の動きを助けるストレッチや、理学療法士が手で関節を動かす「徒手療法(関節モビライゼーション)」などが組み合わせて行われます。これらは推奨グレードB(相当程度の根拠あり)として推奨されています。
ただし、疼痛期(炎症が強い時期)に無理な運動をすると逆効果になることもあるため、時期に合わせた段階的なアプローチが重要です。
物理療法(温熱・レーザー)
温熱療法や低出力レーザー療法も、痛みの軽減と組織の回復を助ける手段として用いられており、こちらも推奨グレードBとされています。
一方、超音波療法については、現時点では有効性を支持する十分な根拠がないとされており(推奨グレードC2)、積極的な使用は推奨されていません。
薬との組み合わせ療法
消炎鎮痛剤(NSAIDs)と理学療法を組み合わせた治療も、疼痛の早期軽減に効果があるとされており、推奨グレードBとして評価されています。痛みが強い急性期では、薬でコントロールしながら並行してリハビリを進めることが効果的なケースがあります。
手術療法
保存療法(手術をしない治療)を十分に行っても改善が見られない場合、手術的なアプローチ(関節鏡による関節包の切離など)が検討されることもあります。こちらも推奨グレードBとされています。
まとめ:五十肩は「待つだけ」でなく「動かし方」が大事
肩関節周囲炎は時間とともに自然に回復することが多い病気ですが、適切な評価と段階に合ったリハビリを組み合わせることで、回復を早め、日常生活への支障を最小限にすることができます。
「いつか治るだろう」と放置して可動域制限が長引くケースも少なくありません。肩の痛みや動きにくさが続く場合は、早めに理学療法士や医師に相談することをおすすめします。
引用・参考文献
- 村木孝行「肩関節周囲炎 理学療法診療ガイドライン」理学療法学 第43巻第1号 67-72頁(2016年)


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