近年、小学生の体の使い方に変化が起きています。スポーツクラブに入って特定の競技を集中的に練習する子どもがいる一方で、動画やゲームに費やす時間が長くなり、慢性的に運動不足になる子どもも増えています。こうした二極化のなか、「しゃがめない」「腰が痛い」「背骨が左右にゆがんでいる」といった体の問題を抱える子どもも目立つようになってきました。
では、肥満度・筋力・柔軟性といった体の特徴は、こうした運動機能の問題とどのように関係しているのでしょうか。徳島文理大学の長田悠路らによる研究は、この問いに正面から向き合ったものです。
運動機能不全とは何か
この研究で扱う「運動機能不全」とは、学校で行われる運動器検診(体の骨・筋肉・関節などを診る検診)で確認される次のような問題を指します。
- しゃがみ込み困難:かかとをつけたまま深くしゃがめない
- 片足立ち困難:片足で5秒以上バランスを保てない
- 姿勢の左右差:立ったとき・前に曲げたときに肩や背中が左右でずれている
- 前屈・後屈時の痛み:前や後ろに体を曲げると脊柱(背骨)が痛む
- 四肢の痛みや動かし難さ:腕や脚を動かすと痛みや引っかかりを感じる
これらは一見、軽微な問題に見えることもありますが、放置すれば将来の腰痛・骨折・ロコモティブシンドローム(運動器の機能が低下し、移動能力が落ちる状態)につながる可能性があります。
研究の概要
この研究は、2025年に徳島県内の私立小学校1〜6年生、合計308人を対象に実施された横断研究(ある時点でのデータをまとめて分析する研究)です。徳島文理大学の倫理審査委員会の承認を得て行われ、児童および保護者への説明・同意のもとでデータが収集されました。
調査では、各児童の体の状態を次の2つに分けて評価しています。
体の状態を表す個人因子(調べた項目)
- 肥満度(身長から算出した標準体重との比較)
- 握力(手で握る力:上半身の筋力の目安)
- 足趾把持力(足の指で握る力:下肢の筋力の目安)
- 反復横跳びの点数(すばしっこさの目安)
- 指床間距離(前に体を曲げたとき指先が床からどれだけ離れるか:柔軟性の目安)
- 月齢・性別
これらの要因と運動機能不全との関連は、「ロジスティック回帰分析」という統計手法を使って調べられました。
主な結果
対象児童の基本データ
308人の平均身長は132.4cm、平均体重は30.7kg。肥満傾向(肥満度+20%以上)の児童は35人(11.4%)でした。また、立った姿勢または前屈時に体の左右差がある児童は88人(28.6%)と、全体の約3割にのぼっていました。
1. 肥満度が高いと「しゃがめない」リスクが約2.5倍
しゃがみ込みができなかった児童は17人(5.5%)。この17人のうち、肥満傾向児(肥満度+20%以上)が約半数の8人を占めていました。
統計分析の結果、肥満度が高いほどしゃがみ込み困難になるリスクは約2.45倍(95%信頼区間:1.61〜3.73)に上がることが示されました。
なぜ肥満があるとしゃがみにくいのでしょうか。先行研究によると、体の脂肪が膝や股関節の動きを妨げること、深くしゃがむ姿勢では股関節や足の関節にかかる力が大幅に増えること、そして肥満の人は深くしゃがむことを自然と避けるようになるため、関節の動く範囲がさらに狭くなってしまうことが影響していると考えられています。
2. 片足立ちが苦手な子どもに共通するのは「握力の低さ」
片足立ちができなかった児童は8人(2.6%)で、そのうち88%が男の子でした。片足立ちと最も強く関連していたのは握力の低さで、ROC分析(予測の精度を表す指標)でAUC=0.79という良好な識別能が確認されました。
握力はただ「手で握る力」を表すだけでなく、体全体の筋力や体幹(お腹や背中の中心部の筋力)の状態を反映するといわれています。高齢者研究でも握力は下肢の筋力やバランス能力と深く関連することが知られており、子どもにおいても同様の可能性が示唆されます。
3. 低学年の男の子は「後ろに体を曲げると痛い」が多い
後屈(体を後ろに反らせること)時に痛みを感じた児童は20人(6.5%)。痛みのある児童の1年生が10人(全体の50%)と最も多く、また男の子が17人と大多数を占めていました。
分析の結果、**「月齢が低いこと(低学年)」「男の子であること」**が後屈時痛みと有意に関連していました。小学生の時期は腰椎(腰の骨)の骨化がまだ完成していないため、腰を過度に反らせる運動を繰り返すことで「腰椎分離症」を起こしやすいことが知られており、今回の結果とも一致します。
4. やせ型の子どもで「姿勢の左右差」が多い傾向
立ったときに肩の高さが左右でずれていた児童は66人(21.4%)でした。分析の結果、肥満度が低い(やせ型に近い)ほど姿勢の左右差がある傾向が示されました。
これは韓国の大規模調査で「やせ型の子どもに脊柱側弯症が多い」と報告されていることとも一致します。ただし、肩の高さの左右差はあくまでも外から見た姿勢の評価であり、脊柱側弯症の確定診断ではありません。軽度の側弯でも早期に適切に治療することで、経過観察だけの場合より良い結果が得られるとの報告もあり、このような視診をきっかけに医療機関への紹介につなげることが重要です。
運動器検診と理学療法士の役割
2015年から小・中・高等学校では「運動器検診」が義務化されました。しゃがみ込み・片足立ち・バンザイ動作・腰の痛みなど、体の動きや痛みを学校医が確認する仕組みです。しかし、従来の内科検診に加えて実施するため、学校医の負担が大きくなっているという課題もあります。
こうした背景から、2024年には「スクールトレーナー制度」が創設され、専門資格を持つ理学療法士が学校保健の現場に参加し始めました。理学療法士は体の動きや機能を評価・改善する専門家として、運動器検診の実施から事後のフォローアップまで、学校医や教職員と連携しながら関わることが期待されています。
まとめ
この研究から得られた主な知見は次のとおりです。
- 肥満度が高いほど、しゃがみ込みが困難になるリスクが高まる
- 握力の低さは、片足でバランスを保つ能力の低下と関連する
- 低学年・男の子は後屈時の腰の痛みが起こりやすい
- やせ型の子どもで姿勢の左右差が見られやすい
特に肥満については、単に「太っている」という問題ではなく、関節の動きや姿勢、バランス能力にまで影響を及ぼす可能性があることが示されました。肥満度は生活習慣の改善によって変化させることができるため、早い段階でスクリーニングを行い、予防的なアプローチにつなげることが重要です。
子どもの運動機能を評価するときには、運動能力の数値だけでなく、痛みの有無や姿勢の左右差といった多角的な視点が必要です。理学療法士が学校現場に継続的に関わり、検診からフォローアップまで一貫した支援体制を整えることが、今後ますます求められていくでしょう。
引用文献
長田悠路, 鴬春夫, 近藤慶承, 他:肥満度・筋力・柔軟性と運動機能不全との関連—小学生を対象とした横断研究—. 理学療法学 第53巻第1号 10〜17頁(2026年)
本論文はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際(CC BY 4.0)ライセンスのもとに公開されています。 © 2026 日本理学療法学会連合

コメント